2014年 10月 18日
已然形がいつから仮定形になったのか(後半) |
こんにちは!
朝晩ずいぶん肌寒くなってきましたね。早くも布団が恋しくなりました。
そしてプロ野球ではCS真っ最中ですが、巨人は阪神に3連敗をくらい背水の陣ですわ・・・。
ですが2012年に中日に3連敗のあと3連勝という奇跡があったのでまだまだ諦めておりませぬ!
お待たせいたしました(誰も待っていない)、已然形の件の後半です。「その話なんだっけ?」という方は前々回の記事を参考にしてもらえればと思います。(http://lucky4155.exblog.jp/23538559/)
2週間前から課題でも何でもないのですが、せっかくの機会ということで学術書を読み漁っておりました。かなりマニアックかつ分かりにくい話だとは思いますがおつきあいお願いしますm(__)m
まずは、疑問点の復習です。
現在の動詞の活用形は「未然・連用・終止・連体・仮定・命令」の6つ。そして文語では「未然・連用・終止・連体・已然・命令」。つまり「已然形➝仮定形」に変化したというわけです。中学の国語の授業で「係り結び」を必ず習うことになっています。しかしこの係り結びの説明をしようと思ったら、「已然形」を教えねばならない。ですがさらに問題があって、已然形を教える前に生徒たちは現在の動詞の活用形すなわち仮定形を勉強している。学校の先生としては「仮定形の昔の形が已然形だよ(^_-)-☆」と教えるにとどまる。でも本当に已然形は仮定形のご先祖様なのか?これがまず一つ目の疑問。
もう一つ復習です。皆さんも古典で一度は習っていると思うのですが、
〇「未然形+ば」・・・「もし~ならば」など、まだ実現していない『仮定条件』を表す。
〇「已然形+ば」・・・「~なので」など、もう実現が確定している『確定条件』を表す。
これなんですがよくよく考えてみると、仮定形って名前の通り「仮定」を表すじゃないですか。でも文語では「未然形+ば」が表して、ご先祖様の「已然形+ば」は理由とか、確定したことを意味してますよね?つまり已然形と仮定形の役割は昔と今とで真逆なわけです。なぜ意味が真逆になったのか。これが二つ目の疑問で、それを考えるために皆既月食も見ずに調べておりました(笑)
ここからが本題。
最初に結論から言うと、「已然形+ば」が確定条件から仮定条件に変わり始めたのは室町時代でした。突然変化したわけじゃなくて、徐々に徐々に変わっていきました。江戸時代前期までは「已然形+ば」と「未然形+ば」が仮定条件を表す用法として併用されており、江戸後期になると「已然形+ば」が専ら仮定条件を表すようになったようです。(已然形から仮定形へ役割変化)
いつから意味が変化したのかはわかりました。ではなぜ変化したのか。ここからちょっとややこしくなりまっせ。まずは下の例文を見てください。
・「名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと」
・「名にし負へば長月ごとに君がため垣根の菊はにほへとぞ思ふ」
この二つはどちらも同じ時代に詠まれたものなのですが、最初の部分に注目!!
上は「負はば」、下は「負へば」になっています。意味としては上が「もし名前に持っているのならば」、下が「名前に持っているのだから」となります。未然形と已然形なんで、当然、訳にはこんな感じで違いは出ますよね。でもですよ!言ってることは同じなんです。
結局は「名前に持つということは・・・」みたいなニュアンスですよね ( ..)φメモメモ
そして仮定表現を使う時に欠かせない言葉が「もし」という言葉です。まあこれは今でも使うしイメージできると思いますが、「ひょっとして」みたいに疑いの気持ちを表して、事実を仮定・前提する時に使います。つまり、「もし明日、雨降ったらどうしよ~!」とか「もしかしたら明日SexyZoneの中島くんに会えるかな(*^^)?」みたいな感じで、あくまでもまだ現実に起こっていない「仮定条件」になる。
ですが方丈記に次のような表記があります。
「もし、せばき(狭い)地に居れば、近く炎上ある時、その炎を逃るる事なし。」
(訳:もし狭い地にいると、近所で火事になった時に炎から逃げられないっすYO)
先ほどの「もし」の特性を思い出してほしい。あくまでも現実に起こっていない「仮定条件」を表すのだから、「~だろう」とか「~かも」みたいに語尾は濁しておくのが普通のはず。ですが、この例の語尾は「なし!」って言いきってますよ。あれれ~おかしいぞ~。
まず「もし」を使ってるのに、「居れば」ってバリバリ「已然形+ば」を使ってるのがおかしい。そして「なし」って言いきってるのもおかしい。なぜこうなっているかというと、この文章は「おや?」「ひょっとして?」というタイプの「もし」ではないからです!「狭い土地にいて、近所が燃えたら逃げれん」って当たり前ですよね。これは普遍的な道理を表しているというわけです。
※他にもたくさんこういう例はあるのですが、書いていたら疲れるのでここでは割愛しておきます。
まとめると、「もし」という言葉には「もしかして」「ひょっとして」っていうタイプのほかに、「もしこのような場合には・・・」っていう用法もあるということになります。『必然性の認識』というわけです。こんな風に確信を伴う予想の意味は、もはや「仮定条件」ではなく「確定条件」。すなわち「未然形+ば」よりも「已然形+ば」の方が意味的にしっくり来るようになった、というわけでござる。
そうこうしてるうちに「已然形+ば」の語尾が「言い切り」ばかりではなく、(「もし」特有の)「推量形」に変わった。すなわち、文の意味が「確定条件」から「仮定条件」に徐々に変化していったということ。これが仮定形の成立です。難しい言葉で言うと、「恒常確定に含意されている、恒常仮定の表現に適用され、推量的な内容と結びついたとき、『已然形+ば』は仮定の意味へと変化した」(『日本語表現の流れ』P87から抜粋し、手を加えたもの)
【キーワード】
〇恒常・・・一定していて変わらないこと
こうして本来、確定表現だったはずの已然形が仮定表現的に用いられるようになり、「仮定形」になったというわけです。
つまり「已然形は仮定形のご先祖様」という説は正解だったということですね。意味は真逆になってるけど。
以上です!
どうでしょうか。なるべく私の言葉でわかりやすく書いたつもりですが、分りにくいところもあるでしょうね…。私も書いていてちょっとこんがらがってきました(;^ω^)まあ今の私が説明できるのはこんな感じですね。何か疑問とかあったらコメントでお寄せ下さいね。それでは~。
参考文献
・『日本語表現の流れ』阪倉篤義
・『日本語条件表現史の研究』小林賢次
・『上方・大阪語における条件表現の史的展開』矢島正浩
・『係り結びの研究』大野晋
・『ことばの科学』言語学研究会
・『日本国語大辞典』
追伸:つかれた
朝晩ずいぶん肌寒くなってきましたね。早くも布団が恋しくなりました。
そしてプロ野球ではCS真っ最中ですが、巨人は阪神に3連敗をくらい背水の陣ですわ・・・。
ですが2012年に中日に3連敗のあと3連勝という奇跡があったのでまだまだ諦めておりませぬ!
お待たせいたしました(誰も待っていない)、已然形の件の後半です。「その話なんだっけ?」という方は前々回の記事を参考にしてもらえればと思います。(http://lucky4155.exblog.jp/23538559/)
2週間前から課題でも何でもないのですが、せっかくの機会ということで学術書を読み漁っておりました。かなりマニアックかつ分かりにくい話だとは思いますがおつきあいお願いしますm(__)m
まずは、疑問点の復習です。
現在の動詞の活用形は「未然・連用・終止・連体・仮定・命令」の6つ。そして文語では「未然・連用・終止・連体・已然・命令」。つまり「已然形➝仮定形」に変化したというわけです。中学の国語の授業で「係り結び」を必ず習うことになっています。しかしこの係り結びの説明をしようと思ったら、「已然形」を教えねばならない。ですがさらに問題があって、已然形を教える前に生徒たちは現在の動詞の活用形すなわち仮定形を勉強している。学校の先生としては「仮定形の昔の形が已然形だよ(^_-)-☆」と教えるにとどまる。でも本当に已然形は仮定形のご先祖様なのか?これがまず一つ目の疑問。
もう一つ復習です。皆さんも古典で一度は習っていると思うのですが、
〇「未然形+ば」・・・「もし~ならば」など、まだ実現していない『仮定条件』を表す。
〇「已然形+ば」・・・「~なので」など、もう実現が確定している『確定条件』を表す。
これなんですがよくよく考えてみると、仮定形って名前の通り「仮定」を表すじゃないですか。でも文語では「未然形+ば」が表して、ご先祖様の「已然形+ば」は理由とか、確定したことを意味してますよね?つまり已然形と仮定形の役割は昔と今とで真逆なわけです。なぜ意味が真逆になったのか。これが二つ目の疑問で、それを考えるために皆既月食も見ずに調べておりました(笑)
ここからが本題。
最初に結論から言うと、「已然形+ば」が確定条件から仮定条件に変わり始めたのは室町時代でした。突然変化したわけじゃなくて、徐々に徐々に変わっていきました。江戸時代前期までは「已然形+ば」と「未然形+ば」が仮定条件を表す用法として併用されており、江戸後期になると「已然形+ば」が専ら仮定条件を表すようになったようです。(已然形から仮定形へ役割変化)
いつから意味が変化したのかはわかりました。ではなぜ変化したのか。ここからちょっとややこしくなりまっせ。まずは下の例文を見てください。
・「名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと」
・「名にし負へば長月ごとに君がため垣根の菊はにほへとぞ思ふ」
この二つはどちらも同じ時代に詠まれたものなのですが、最初の部分に注目!!
上は「負はば」、下は「負へば」になっています。意味としては上が「もし名前に持っているのならば」、下が「名前に持っているのだから」となります。未然形と已然形なんで、当然、訳にはこんな感じで違いは出ますよね。でもですよ!言ってることは同じなんです。
結局は「名前に持つということは・・・」みたいなニュアンスですよね ( ..)φメモメモ
そして仮定表現を使う時に欠かせない言葉が「もし」という言葉です。まあこれは今でも使うしイメージできると思いますが、「ひょっとして」みたいに疑いの気持ちを表して、事実を仮定・前提する時に使います。つまり、「もし明日、雨降ったらどうしよ~!」とか「もしかしたら明日SexyZoneの中島くんに会えるかな(*^^)?」みたいな感じで、あくまでもまだ現実に起こっていない「仮定条件」になる。
ですが方丈記に次のような表記があります。
「もし、せばき(狭い)地に居れば、近く炎上ある時、その炎を逃るる事なし。」
(訳:もし狭い地にいると、近所で火事になった時に炎から逃げられないっすYO)
先ほどの「もし」の特性を思い出してほしい。あくまでも現実に起こっていない「仮定条件」を表すのだから、「~だろう」とか「~かも」みたいに語尾は濁しておくのが普通のはず。ですが、この例の語尾は「なし!」って言いきってますよ。あれれ~おかしいぞ~。
まず「もし」を使ってるのに、「居れば」ってバリバリ「已然形+ば」を使ってるのがおかしい。そして「なし」って言いきってるのもおかしい。なぜこうなっているかというと、この文章は「おや?」「ひょっとして?」というタイプの「もし」ではないからです!「狭い土地にいて、近所が燃えたら逃げれん」って当たり前ですよね。これは普遍的な道理を表しているというわけです。
※他にもたくさんこういう例はあるのですが、書いていたら疲れるのでここでは割愛しておきます。
まとめると、「もし」という言葉には「もしかして」「ひょっとして」っていうタイプのほかに、「もしこのような場合には・・・」っていう用法もあるということになります。『必然性の認識』というわけです。こんな風に確信を伴う予想の意味は、もはや「仮定条件」ではなく「確定条件」。すなわち「未然形+ば」よりも「已然形+ば」の方が意味的にしっくり来るようになった、というわけでござる。
そうこうしてるうちに「已然形+ば」の語尾が「言い切り」ばかりではなく、(「もし」特有の)「推量形」に変わった。すなわち、文の意味が「確定条件」から「仮定条件」に徐々に変化していったということ。これが仮定形の成立です。難しい言葉で言うと、「恒常確定に含意されている、恒常仮定の表現に適用され、推量的な内容と結びついたとき、『已然形+ば』は仮定の意味へと変化した」(『日本語表現の流れ』P87から抜粋し、手を加えたもの)
【キーワード】
〇恒常・・・一定していて変わらないこと
こうして本来、確定表現だったはずの已然形が仮定表現的に用いられるようになり、「仮定形」になったというわけです。
つまり「已然形は仮定形のご先祖様」という説は正解だったということですね。意味は真逆になってるけど。
以上です!
どうでしょうか。なるべく私の言葉でわかりやすく書いたつもりですが、分りにくいところもあるでしょうね…。私も書いていてちょっとこんがらがってきました(;^ω^)まあ今の私が説明できるのはこんな感じですね。何か疑問とかあったらコメントでお寄せ下さいね。それでは~。
参考文献
・『日本語表現の流れ』阪倉篤義
・『日本語条件表現史の研究』小林賢次
・『上方・大阪語における条件表現の史的展開』矢島正浩
・『係り結びの研究』大野晋
・『ことばの科学』言語学研究会
・『日本国語大辞典』
追伸:つかれた
by luckyboy4155
| 2014-10-18 13:32